PCPの実践

PCPとは

本人の夢や希望をかなえるための支援システム

  PCPは「人を中心に据えた計画づくり」と訳されます。方法論としては様々な手法が世界で紹介されていますが、私たちは、アメリカにおけるノーマライゼーション提唱の第一人者ヴォルフェンス・ベルガー博士との親交も厚いS・ホルバーン氏により平成17年からPICTURE法を学んできました。

  PICTURE法では、障害者の夢や希望をないがしろにすることなく、一見不可能と思えるような本人の申し出も否定せずにしっかりと受け止めていきます。それを支援していくスタッフは専門家ばかりではなく、むしろ本人の身近にいて現実的に愛情や情熱をもって支えられる人たちがチームの一員として選ばれます。

  友人や先生、近所の世話役的な人、両親や施設関係者などからなるチームは、8つのPICTURE(1.人間関係 2.家庭生活 3.能力 4.選択・思考 5.仕事、学校などの活動 6.健康 7.地域資源 8.人権と尊重の8領域)について、本人の夢や希望をもとに将来のゴールを設定し、誰が何をいつやるのかといった具体的な戦略と方針を立てて実践してゆくことになります。

  「親亡き後のこの子の行く末」を心配する親御さんは、入所施設のハードや制度的安定感からばかりではなくむしろ永く関わることで築き上げられたその親密な人間関係に安定感を覚えているのではないでしょうか。だとすれば彼らが地域に移り住む時、地域に彼らを支える人間関係が築かれている状態が本当の地域移行だといえるはずです。

  PCPは、日本における介護保険のケアマネジメントのように、単なるサービス量を決定し現在サービス可能な事業所に送り込むだけのものではなく、夢や希望をかなえると同時に障害者が地域移行するうえで必要な土壌をはぐくむことができる、トータルサポートシステムだといえるのです。
PICTURE法を導入したミーティング風景。紙に書き込みながら、本人の希望をチーム全員で共有します

ミーティング1 星が岡牧場での実践例
フォーカス・パーソン PCメンバー
現状と将来の夢や希望
PICTURE 現 状 将 来
人間関係
  • お母さん(加賀市の高齢者グループホームに入居中)が一番大事
  • GHの友達のRさんとは一番気が合うが、Mさん、Yさんはうるさくて嫌
  • 近所の人とはあいさつをする
  • 友達同士でデパートに買い物に行きたい
  • でもお金がわからないので自分たちだけで行けるか不安
家庭生活
  • グループホームに住んでいる
  • 一人暮らしをしたい
  • 新築で土地も買う
  • 犬を飼う
  • 母を呼びたい
仕 事
日中活動
  • ワークセンターで働いている
  • 「いらっしゃいませ」と売り子をしたい
  • うどん屋さんで働いてみたい、チャレンジしたい
  • 給料はもっと欲しい
健 康
  • てんかん発作が(最近はずっとないが)心配
  • 最近「ばば」になってきた
  • 特別要望がない
選択・嗜好
  • 不自由を感じない
人権と尊重
  • 花の水やり等GHでの役割がある
  • 自分がGHを出て行った後、(この家を回しているのが自分だと自負しているので)みんなが大丈夫か心配
そこで本人が立てたゴール(目標)は・・・
「一人暮らしをしたい(土地を買って、新築を建てる)」
だった。
戦略1
WHAT WHO WHEN
貯金箱を買って千円ずつ貯金する M、F 毎週月曜
50万円たまる貯金箱を買う S(Mと一緒に) 次の日曜日
加賀市周辺の不動産情報を集める U、W、T 次のミーティングまでに
料理(ハンバーグ)の練習をする M、F 次のミーティングまでに
次のPCミーティングにて
貯金を始めたものの、土地・建物を購入すると新築で3,980万円。
毎週千円ずつ貯めても400年掛かる(ちなみに中古物件でも200年)
そこで、なぜ一人暮らしがしたいのか聞いてみると‥
  • グループホームに母を呼ぶのはとにかく嫌。母は耳が遠いので大きな声を出さないといけない。
  • GHにいるとMさん、Yさんがうるさいので集中できない。一人だと何でもできる。
    とのこと。
ゴールの変更
「一人暮らしがしたい(アパートでも可)」
戦略2
WHAT WHO WHEN
加賀市周辺の不動産(アパート、公営住宅)情報を集める U、S、W、T 次のミーティングまでに
現在の一ヶ月のお金の収支をまとめる 次のミーティングまでに
お金の勉強をする M、U 次のミーティングまでに
料理(コロッケ)の練習をする M、F 次のミーティングまでに
戦略2の結果
物件 市営住宅:15000円~21000円
賃貸:38000円~48000円
収入と支出 工賃は増えているが、自立支援法などで出費も増えている。収入90,349円、支出70,000円
一人暮らしでかかる
1か月の費用
光熱水費、電話など11000円~15000円
お金の練習 買い物形式で勉強。難しい。
コロッケ作り 揚げ物にも挑戦。うまくいった。今後も新たな料理(卵焼き、餃子)にトライ。
本人は、家賃の安い市営住宅を希望
戦略3
WHAT WHO WHEN
市営住宅の見学ツアーを実施しよう K、U、W、T 次のミーティングで
見学をして
見学ツアー中はあまり反応がなく、途中母親の入居するホームの近くを通った時に楽しそうな様子をみせる 一同、「一人暮らしを本当にしたいのか?」と不安になったものの‥‥
  • 外から外観を見たのみなので、間取りを見たかった(by K)
  • 3軒見た中で、気に入った物件をピックアップ
戦略4
WHAT WHO WHEN
ひきつづき料理の練習 K、F 次のミーティングで試食
買いものの練習 次のミーティングまで
市営住宅について具体的に調べる 次のミーティングまで
市営住宅について調べた結果
 
□市営住宅の空き状況…9人待ち
□家賃…20,000円台
今後は…市営住宅への申し込みを終え、待機中。
順番がまわってくるのに早くて2~3年はかかる
戦略5
  • 順番待ちをしながら、1人暮らしに向けた様々な練習を行おう
  • 半年ほど経ったら、また、ミーティングを開きましょう

PCPを実践して1
PCPにはいくつかの厳守事項があります。
その一つが、「本人の夢に対してネガティブにならない」というものです。
そんなことは当たり前だと頭ではわかっているのに、実践するとなかなか難しい。
「えっ、それをゴールにするの?!」「無理だよ~」。
PCスタッフは顔には出さないものの、心の中に溢れるネガティブ発想と闘っています。情けない有様です。
でも、本人は一生懸命自分の想いを話してくれているのです。
たぶん今までは、本人の言葉を途中で遮って、悪気もなく自分たちの都合のよいように話の筋道をつくってきたのでしょう。
PCPは、今さらながらに「私たちの中心にいるのは誰か」を教えてくれました。
だから私たちは、なかなか次の言葉が出てこなくても「とにかく耳を傾け、聴く」ことを大事にしました。
すると、だんだん、本人の顔には自信があふれ、お化粧も毎日するようになり、自分から話をするようになったのです。自分のことを気にかけ、応援してくれる人がいる、ということが彼女を変えたのかもしれません。
ミーティング2